作成日:2026.09.15
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市場・価格
※本記事は、作成日または最終更新日時点で公表されている制度情報・数値・資料に基づいて作成しています。
エリアの壁が外れる——二次調整力①、2027年度から広域調達へ
需給調整市場の5商品のうち、二次調整力①だけがエリア内でしか売買できなかった。その最後の1つを2027年度から広域調達へ移す事務局案が、9月15日の第63回需給調整市場検討小委員会に出た。根拠は実測である。広域LFC運用に切り替えた前後で周波数の品質は落ちず、LFC動作量は両地域計で1日あたり上げ▲2,294MWh・下げ▲2,732MWh減り、調整力のkWhコストは月▲57.9百万円下がった。ただし広域市場に出る量は必要量の全部ではない。
CONTENTS目次
何が起きたか:OCCTO事務局が、二次調整力①(LFC成分)の広域運用は実現したと評価し、2027年度から需給調整市場で広域調達を開始する案を第63回小委へ示した。
なぜ重要か:二次調整力①は5商品で唯一エリア内調達が残っていた商品で、これが広域化すると全商品が前日取引かつ広域調達で揃う。応札可能な範囲と価格形成の前提が同時に変わる。
何をすべきか:2027年度の応札計画をエリア内の希少性前提からブロック単位の相対比較前提へ組み替える。あわせて募集量が1シグマ相当に留まる点を踏まえ、自エリアの余力活用契約との配分を再設計する。
最後の1つ
需給調整市場には5つの商品がある。一次調整力、二次調整力①、二次調整力②、三次調整力①、三次調整力②。このうち二次調整力①だけが、2026年度に入ってもなおエリア内での調達にとどまっていた。ほかの4つはすでに広域調達へ移っている。
資料2 p27の商品導入スケジュールは、その状態を1枚で示している。一次は2026年度から広域調達(前日)、二次②と三次①も2026年度から広域調達(前日)、三次②は広域調達(前日)。二次①だけが「エリア内調達(前日)」の欄に残り、2027年度の列で広域調達へ移る設計になっている。
事務局が今回示したのは、その予定どおりに進めてよいか、という判断である。
各種システム改修が完了、広域運用の実績を踏まえて二次①の広域運用が実現したと評価できることから、当初の予定通り2027年度からは広域調達を実施することとしてはどうか
— 資料2 p24(p29のまとめでも同旨を再掲)これが通れば、需給調整市場の全商品が前日取引かつ広域調達で揃う。制度の骨格が一巡する。
なぜ二次①だけ遅れたのか
理由は技術的なものだった。二次調整力①はLFC(負荷周波数制御)成分で、各エリアの中央給電指令所システムはLFCの演算周期・制御周期がそれぞれ違う。周期が揃っていない以上、エリアをまたいで1つの指令を出す仕組みが作れない。だから各エリアで調達し、各エリアで運用するしかなかった(資料2 p2)。
OCCTOが採ったのは、既存の広域需給調整システム(KJC)にモジュールを追加して広域運用を実現する方式である。手順は東地域(東北・東京)が先、中西地域(中部・北陸・関西・中国・四国・九州)が後だった。東地域は2025年10月20日から28日まで試験運用を行い、2026年1月30日に正式運用へ入っている。中西地域は2026年4月13日から試験運用を始め、当初は4月23日までの予定だったが一部エリアの中給システム改修の都合で4月28日まで延び、同日から正式運用に入った。
演算タイムオーバーという躓き
東地域の試験運用中、2025年10月25日に広域LFCの演算タイムオーバーが起きた。OCCTOは11月18日に広域LFCをロックして調査に入り、2026年1月9日に対策を現地へ反映している。試験開始から正式運用まで3か月かかったのは、この調査と対策のためである。
原因は資料2 p11に書かれている。KJCが日次ファイル(当該日にエリア中給から受信したファイル)を毎日決まった時刻に一括削除する処理を持っており、その削除が帯域を占有して広域LFCのファイル処理を遅らせていた。対策は削除処理を分割して実行すること。帯域の占有を抑えて事象は解消した。
制御システムの性能限界ではなく、同居していたバッチ処理の作り方の問題だった。広域化そのものの是非とは別の話である。
評価は3項目
OCCTOは2025年10月16日から2026年7月31日までの実績をもとに、3つの観点で広域運用を評価した。
周波数は落ちていない
切替の前後で周波数変動は同程度。±0.1Hzおよび±0.2Hzの滞在率は「同水準以上」(資料2 p17・p22)。比較区間は、東地域がエリア内運用2026年1月1日〜1月30日に対して広域運用2026年1月30日〜2月28日、中西地域がエリア内運用2026年3月1日〜4月13日に対して広域運用2026年4月28日〜5月31日である。
広域化の前提条件は「周波数品質の維持に支障が生じないこと」だった。ここがクリアされたことが、調達側へ進む根拠になっている。
LFC動作量は減った
ARネッティングの効果として、東地域は上げ▲351MWh/日(▲14%)・下げ▲117MWh/日(▲4%)、中西地域は上げ▲1,943MWh/日(▲14%)・下げ▲2,615MWh/日(▲28%)。両地域を合わせると上げ▲2,294MWh/日・下げ▲2,732MWh/日になる(資料2 p18・p22)。
下げ側の低減率が中西地域で28%と突出している。上げ側は両地域とも14%でほぼ同じなので、差がついているのは下げだけである。
調整力kWhコストも下がった
2026年5月1日以降の実績で東地域▲15.3百万円/月・中西地域▲42.6百万円/月、合計▲57.9百万円/月(資料2 p20)。
シミュレーションの2倍になった理由
このコスト低減幅には前史がある。2020年の第18回小委で示されたシミュレーションは、8エリア計で▲1百万円/日、月に直して▲30百万円だった。実績はその約2倍に出た。
事務局の説明は「資源価格の高騰によって発電コストがシミュレーション時よりも上昇している等」というもので、注記に通関統計からの数字が引かれている。石炭が2020年平均8,540円/MTから2026年6月23,200円/MTへ。JLC(液化天然ガス)が43,270円/MTから92,100円/MTへ。どちらも2倍以上になっている。
広域化の効果は、高い電源を安い電源に置き換えることで出る。置き換え前の電源が高いほど、差額は大きくなる。燃料価格が上がったぶんだけ、同じ置き換えでも浮く金額が増えたという理屈である。
この構造は、限界費用がほぼゼロの蓄電池にとっては追い風の側に働く。燃料費で動く電源との価格差が開くほど、メリットオーダーの中で先に呼ばれる位置に近づく。
応札できる範囲が広がる
BESS側から見ると、変わるのは2つある。
1つ目は応札先である。いまの二次①はエリア内調達なので、自エリアの一般送配電事業者にしか売れない。広域調達になれば、東地域または中西地域のブロック内で、立地エリアを越えて約定し得る。不足率が高い東北・東京・北陸・関西へ、余裕のあるエリアのリソースが供給できる形になる。
2つ目は価格の比べられ方である。これまで「自エリアに他の調整力が少ない」ことを根拠に通っていた価格は、広域メリットオーダーの中で他エリアの電源と直接比較されることになる。二次①は2026年度からすでに前日取引と上限価格設定の下にあり、その上限価格は第4回電力安定供給ワーキンググループでさらに引き下げられて2026年9月1日から適用されている。2027年度の広域化は、同じ方向に圧力をかける。
応札できる範囲は広がり、通る価格は下がりやすくなる。どちらか片方だけを見て計画を組むと外す。
全量が広域市場に出るわけではない
ここが実務上いちばん効く。
資料2 p25は課題・懸念事項として2点を挙げている。連系線ルート断時に当該エリアへ調整機能が存在しない電源構成となる懸念。そして、連系線のΔkWマージンは一次調整力から優先して確保されるため、二次①のΔkWマージンは「二次①確保量ー一次ΔkWマージン」で算定され、全量が確保されない場合があるという点である。広域調達した二次①が活用できず、特定エリアで不足する可能性が指摘されている。
これに対する事務局の整理はこうである。二次①の必要量は誤差実績の3シグマ相当値だが、広域調達する市場募集量は1シグマ相当値であり、その差分は余力を通じて自エリアから調達している。だから現時点で広域調達による運用上の課題が生じる可能性は低い。
読み替えると、必要量のうち市場に出るのは1シグマ分だけで、残りは引き続き自エリアの余力活用から取る。広域化イコール募集量の大幅増ではない。自エリアの余力活用契約と市場応札の配分は、この前提で組み直す必要がある。
編集部の見立て
- 2027年度の応札計画は、自エリア前提からブロック前提へ組み替えるのが妥当である。ただし募集量が1シグマ相当に留まる設計を踏まえると、広域市場だけを見た計画では量が足りない。余力活用契約との二本立てで設計するほうが実態に合う。
- 価格前提は下方に置き直したい。上限価格の引き下げが2026年9月1日に適用済みで、そこへ2027年度の広域化が重なる。二次調整力①単独の収益を厚く見積もった投資判断は見直す余地がある。
- 制度の骨格はこれで一巡する。全商品が前日取引かつ広域調達で揃ったあと、論点は要件緩和・応札不足対策・同時市場との接続へ移っていく。次に読むべき資料の場所が変わる。
今から備えること
| # | アクション | 期限 |
|---|---|---|
| 1 | 2027年度の二次調整力①応札計画を、自エリア前提からブロック(東地域/中西地域)前提へ組み替える | 2026-12-31 |
| 2 | 第63回小委の議事結果・委員意見の公表を待ち受け、事務局案が了承されたか、条件が付いたかを確認する | 2026-10-15 |
| 3 | 広域調達の市場募集量が1シグマ相当に留まる設計を踏まえ、自エリアの余力活用契約と市場応札の配分を再設計する | 2026-11-30 |
| 4 | 取引規程・業務規程の改定スケジュール(2027年度適用に向けた意見募集の開始時期)を監視対象に追加する | 2026-10-31 |
数値照合表
本文に出した主要な数値を、一次情報の該当箇所と1対1で対照した表である。ページ番号は資料2のものを指す。
| # | 項目 | 本文の値 | 一次情報(出典・該当箇所) |
|---|---|---|---|
| 1 | 事務局案の本文 | 「当初の予定通り2027年度からは広域調達を実施することとしてはどうか」 | 資料2 p.24(p.29で再掲) |
| 2 | LFC動作量(東地域) | 上げ▲351MWh/日(▲14%)・下げ▲117MWh/日(▲4%) | 資料2 p.18 |
| 3 | LFC動作量(中西地域) | 上げ▲1,943MWh/日(▲14%)・下げ▲2,615MWh/日(▲28%) | 資料2 p.18 |
| 4 | LFC動作量(両地域計) | 上げ▲2,294MWh/日・下げ▲2,732MWh/日 | 資料2 p.18・p.22 |
| 5 | 調整力kWhコスト | 東地域▲15.3百万円/月・中西地域▲42.6百万円/月=計▲57.9百万円/月 | 資料2 p.20 |
| 6 | 2020年のシミュレーション値 | 8エリア計▲1百万円/日(▲30百万円/月) | 資料2 p.20(第18回小委の値) |
| 7 | 燃料価格(石炭) | 2020年平均8,540円/MT → 2026年6月23,200円/MT | 資料2 p.20 注記(通関統計) |
| 8 | 燃料価格(JLC) | 43,270円/MT → 92,100円/MT | 資料2 p.20 注記(通関統計) |
| 9 | 周波数への影響 | 切替前後で変動は同程度、±0.1Hz・±0.2Hz滞在率は同水準以上 | 資料2 p.17・p.22 |
| 10 | 正式運用の開始 | 東地域 2026年1月30日/中西地域 2026年4月28日 | 資料2 p.2 |
| 11 | 演算タイムオーバーの原因 | KJCの日次ファイル一括削除処理が帯域を占有し、広域LFCのファイル処理が遅延 | 資料2 p.11 |
| 12 | 募集量の設計 | 必要量は誤差実績の3シグマ相当値、広域調達する市場募集量は1シグマ相当値 | 資料2 p.25 |
| 13 | 商品導入スケジュール | 二次①は2026年度エリア内調達(前日)、2027年度から広域調達(前日) | 資料2 p.27 |
よくある質問
Q1. 二次調整力①が2027年度から広域調達になるというのは決まったことですか。
Q2. なぜ二次調整力①だけエリア内調達が残っていたのですか。
Q3. 広域運用に切り替えて、周波数の品質は落ちなかったのですか。
Q4. コストの低減幅が2020年のシミュレーションの約2倍になったのはなぜですか。
Q5. 広域調達になれば、二次調整力①の市場募集量は増えるのですか。
Q6. BESSの応札戦略は具体的に何を変えればよいですか。
編集体制と事実確認プロセス
BESS NEWSの記事はこう作っています
- BESS NEWSは一次情報主義を採ります。官公庁・電力広域的運営推進機関・一般送配電事業者・執行団体が自ら公表した文書とページのみを出典とし、業界紙・ニュースサイト・プレスリリース配信の二次情報は出典に用いません。
- 本稿の数値・引用は、保存した配布資料PDFの本文から該当ページを特定して突合しています。対照結果は「数値照合表」に資料名とページ番号つきで示しました。
- 本稿が扱うのは事務局案であって、決まった制度ではありません。資料の表現は「実施することとしてはどうか」であり、第63回小委の議事結果・委員意見は本稿執筆時点で公表されていません。
- 記載が見当たらない事項は「未確認」と明記し、推測で埋めません。本稿では、2027年度適用に向けた取引規程・業務規程の改定スケジュールがこれに当たります。
- 応札戦略・投資前提への影響についての記述は、一次情報の事実に基づく編集部の解釈です。確定した見通しではありません。
出典(一次情報)
- OCCTO:第63回 需給調整市場検討小委員会(第80回 調整力の細分化及び広域調達の技術的検討に関する作業会 合同会議)
- 資料2 二次調整力①の広域運用および広域調達について
- 資料1-1 議事次第
- 資料1-2 需給調整市場検討小委員会 用語集
- OCCTO:第57回 需給調整市場検討小委員会(広域運用開始に向けたスケジュール)
※二次情報(業界紙・ニュースサイト・プレスリリース配信)は出典に用いていません。本文中のページ番号は、断りのない限り出典2(資料2)のものです。
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