作成日:2026.09.14
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※本記事は、作成日または最終更新日時点で公表されている制度情報・数値・資料に基づいて作成しています。
同時市場は蓄電池の何を見て、何を見ないのか——SOCは見る、劣化と一次調整力のぶれは見ない
第25回 同時市場の在り方等に関する検討会(2026年9月14日)の資料4 p.65に、蓄電池の運用制約を約定処理でどう扱うかの素案が載った。充放電の上下限とSOCは制約条件として直接考慮する。一次調整力の供出に伴う出力変動と性能劣化は「本シミュレーションでの対象外」。系統起因の出力抑制はSCUC・SCEDの系統制約の中で吸収される。市場側が見ない部分は、事業者が自分の入札戦略で吸収するしかない。線引きの位置は、そのまま責任分界の位置になる。
CONTENTS目次
何が起きたか:資料4 p.65で、蓄電池の運用制約6項目について、同時市場の約定処理上どう扱うかの素案が示された。
なぜ重要か:市場側が制約条件として直接扱う範囲と、事業者が自分の入札戦略で吸収すべき範囲の線引きが具体化し、EMSの設計要件と収益機会に直結する。
何をすべきか:論点セットJ(揚水・蓄電池)の審議と、10月頃の小売電気事業者向けアンケートの設問を追い、自社設備の制約が市場側でどう扱われるかを確認する。
同時市場ではSCUC(系統制約付き電源起動停止計画)が全電源の起動停止と出力配分を一括で最適化する。各電源の運用制約をどこまで制約条件として式に入れるかが、求解時間と実現可能性を左右する。入れすぎれば時間内に解けない。入れなければ実運用と乖離した約定結果が出る。
線引きの全体像
蓄電池はSOCという時間をまたぐ制約を持つため、この綱引きの中心にある。資料4 p.65の整理を並べ直すと、こうなる。
| # | 制約 | 本シミュレーションでの対応方針 |
|---|---|---|
| 1 | 充放電上下限制約 | 各コマの出力上下限を入札し、制約条件として考慮。複数の蓄電所をまとめたサイト単位の合計出力の上下限も考慮 |
| 2 | SOC制約 | 貯蔵可能なエネルギーの最小/最大量(kWh)、取引開始時点のSOC初期値、供給継続時間を入札し、制約条件として考慮 |
| 3 | 1日1サイクルを目安に充放電運用を行う制約 | SOC制約と同じ扱い |
| 4 | 一次調整力供出制約 | 調整力の発動は同時市場の約定時点で発動有無が不明なため、本シミュレーションでの対象外とし、取り扱わない方針 |
| 5 | 性能劣化制約 | 導入時期や運用状況に応じた考慮は本シミュレーションでの対象外とし、取り扱わない方針 |
| 6 | 系統起因出力抑制 | 同時市場のSCUC・SCEDの中で系統制約を考慮されると想定されるため、制約条件には反映しない |
6は「見ない」ではなく「別の場所で見る」である。4と5だけが、市場側の視野から完全に外れる。
直接考慮される3つ
充放電上下限制約について、資料はユニット単位の上下限に加えてこう書いている。「複数の蓄電所をまとめたサイトに対して、各コマにおける各蓄電所の合計出力の上下限の情報を入札し、制約条件として考慮する」。複数拠点を1サイトとして束ねる運用が、制度の側で想定されている。アグリゲーターにとっては使える設計だが、束ねた単位での責任分界は自分で設計する必要が出てくる。
SOC制約の入札項目は3つ。貯蔵可能なエネルギーの最小/最大量(kWh)、取引開始時点のSOCの初期値、そして供給継続時間である。3つ目が入っているのは見逃せない。供給継続時間を入札項目に持つということは、2時間品と4時間品、さらに長時間放電型(LDES)で扱いが分かれる余地が制度側に残るということになる。
1日1サイクルを目安とする充放電運用の制約は、SOC制約と同じ扱いとされた。ただし次期中給システムでの扱いは「事業者自身が発電販売計画の発電上下限として反映する想定で間接的に考慮」である。同時市場のシミュレーション上は直接の制約、次期中給では事業者側の反映、という二重の状態になっている。
対象外とされた2つ
一次調整力供出制約は、系統用蓄電池について計画値・指令値が0kWであっても、一次調整力を供出することで出力変動が発生する、という制約である。これが外れた理由は明記されている。「調整力の発動は同時市場の約定時点で発動有無が不明なため」。約定の瞬間に発動するかどうか分からないものは、制約式に入れようがない、という理屈だ。
海外調査の側(p.52)には補足がある。一次調整力供出制約について「特段制約とは考えていない。一次調整力によるSoC変動は長時間では±0になる想定」という記載である。上げ方向と下げ方向で均されるから、日単位では無視できるという整理になる。実機のEMSを設計する立場からは、その「長時間」がどの時間スケールを指すのかが問題になるが、資料からは読み取れない。
性能劣化制約は、運用によって満充電容量が減少し、同じSOC表示でも劣化前と劣化後で充電容量が異なる、という制約である。これも「導入時期や運用状況に応じた考慮は本シミュレーションでの対象外」とされた。ただし次期中給システムでの扱いは「事業者自身が発電販売計画の発電上下限として反映する想定で間接的に考慮」である。
劣化の織り込みは事業者側の責任範囲に置かれている。市場は名目の容量を受け取り、実効容量との差は入札値の中で吸収してもらう、という分担になる。
揚水と蓄電池の非対称
p.62の揚水の表と、p.65の蓄電池の表を並べると、検証の厚みが違うことが分かる。
まず制約の種類である。p.25の分類表で蓄電池に○が付くのは、出力・上下限制約/出力保持制約/エネルギー入札のみ制約/貯水・SOC制約/同時起動・停止制約/起動停止回数制約の6項目。起動・停止カーブ制約、ランプレート制約、最小運転時間制約、最小停止時間制約、発電/揚水モード切替制約、燃料制約は蓄電池には設定されていない。蓄電池は火力や揚水より制約が少ない電源として整理されている。
問題はその先だ。p.52の海外調査表で日本側の2列(次期中給システム/技術検証での考慮)を読むと、蓄電池の充放電上下限制約・系統起因出力抑制・SOC制約の3つは、技術検証での考慮がいずれも「ー*1」である。凡例によれば「間接的に考慮可能だが未検証」を意味する。揚水の同じ欄は「○」で、こちらは考慮済みと整理されている。
同時市場の設計は揚水を軸に組まれてきて、蓄電池は後から当てはめられている。その状態のまま、実測(シミュレーション)が今年度は行われないことになった。
海外の割り切りと、その援用
資料4 p.23のベンダー意見に、今後の議論で繰り返し引かれそうな一節がある。
全ての制約を厳密に考慮すると、限られた時間で求解できない可能性が高い。制約に優先度をつけて、モデル化(定式化)である程度割り切るところは割切るようなアプローチもあるが、もう1つのアプローチとして、運用ルールでSCUCの対象を限定化するようなアプローチも考えられる。例えば、北米でも膨大な蓄電池が入ってきているが、それらすべてをSCUCで求解しているわけでなく、容量の小さなものはセルフスケジュールにまわして割り切っていると聞いている
— 資料4 p.23(運用制約に関するベンダー意見)制約を絞るのではなく、対象を絞る。これは制約条件の精緻化とは別の次元の話で、「どの蓄電池が市場の最適化対象に入るか」を運用ルールで決めるという意味になる。小規模BESSがセルフスケジュールに回れば、市場から出力配分の指示を受けない代わりに、収益機会の取り方も変わる。
研究会の側も、そこを制度論点として指摘している。p.73にはこうある。「蓄電池については、どこまでが事業者の運用裁量で、どのような形で収益機会を同時市場に織り込むのか、といった整理が必要であり、事業者の運用の自由度とセットで、同時市場の中でどこまで指示・最適化の対象とするのかを整理すべきだと考えている」。同じページには「蓄電リソースをどこまで最適化対象に含めるかといった点は、技術研究上は優先度が低くても、制度・運用上は非常に重要な論点になり得るのではないか」という指摘もある。p.70では揚水を含めて「すべてを市場に委ねるわけではなく、詳細制約を考慮できないのであれば、例えばTSO側での運用やセルフスケジュール運用など別の運用もあり得る」とも言われている。
技術研究の優先度としては低く、制度としては重い。この落差が、論点が長く宙に浮く条件になっている。
端点SOCは週間運用で決まる
入札との接続も押さえておきたい。p.28によれば、蓄電池・揚水の端点(開始時・終了時)蓄電量は、「週間運用で決定された蓄電リソースの端点の情報」を蓄電量[MWh]として、2コマ分(1コマ目と48コマ目)渡す設計になっている。
日をまたぐSOCは週間運用の段階で決まり、前日市場のSCUCはその端点を所与として受け取る。日内のアービトラージでどこまで自由に動けるかは、前日市場より前の週間運用の設計に従属する。前日スポットの価格差を見て日々最適化する、という現在の感覚のままでは読み違える。
事業者に直接問われている
この線引きは、本日あわせて公表された参考資料2(令和8年度同時市場の検討に係る調査アンケート・発電事業者等向け。回答期限は2026年9月11日)のQ20「揚水・蓄電池」で、選択肢の形にして事業者へ投げられている。
Q20-5は、池水位・蓄電池容量の運用について3案を示し、それぞれの課題・懸念点と、その運用を想定している場合の理由を書かせる形式である。
| 案 | 運用 | 最適化の単位 |
|---|---|---|
| ① | 同時市場による運用 | すべてディスパッチャブル領域とみなし、1週間単位で最適化 |
| ② | BG運用(ストレージ式運用) | セルフ&ディスパッチャブルのディスパッチャブル領域を1日単位で最適化 |
| ③ | BG運用(非ストレージ式運用) | 池水位(kWh)制約をもとに、BGが自らコマ毎の充放電のkW上限を提示 |
①へ行くほど市場に委ね、③へ行くほど事業者の手元に裁量が残る。Q20はほかに、kWh市場でのアービトラージ運用とΔkW市場での活用状況(Q20-1)、入札価格の設定の考え方と価格算定における費用諸元(設備による充放電効率の違い・充電原資・託送料金〔発電側課金含む〕/Q20-2)、kWhとΔkWを同時約定する同時最適化ロジックで考慮すべきリソース固有の機器特性(Q20-3)、リンク・ループブロック入札がなくなった場合に想定される運用方法(Q20-4)を問うている。
なお参考資料2 p.5には用語の定義が置かれている。「市場計画電源(Pool-scheduled resources)」は起動および出力容量下限までの出力を同時市場の約定結果に委ねる電源、「自己計画電源(Self-scheduled resources)」は同じ範囲を保有主体が決定する電源、「出力配分可能領域(Dispatchable Range)」は出力容量下限と出力容量上限の間の領域である。蓄電池がどちらに分類されるかで、日々の運用裁量の所在が変わる。
論点セットJ「揚水・蓄電池」は、資料5 p.3・p.4によれば約定区分の論点セットとして独立に置かれている。ただし本日時点で優先着手の対象には入っておらず、優先されたのは電源等の運転制約・系統制約の把握(項目①)と入札に関連する内容(項目②)である。
編集部の見立て
- EMS設計の実務としては、市場が見ない2つ(一次調整力供出によるSOC変動・性能劣化)を自社で吸収する前提で組むのが妥当である。いずれも「事業者が発電販売計画の上下限に反映する」という整理が資料側に書かれており、そこを外して設計する根拠がない。
- 供給継続時間が入札項目に入ったことは、長時間放電型と短時間型で扱いが分かれる余地が制度側に残ったことを意味する。現時点で分岐が決まったわけではないが、設備仕様を決める段階の判断材料にはなる。
- いちばん効くのは、制約の精緻さではなく「最適化対象に入るかどうか」である。p.23の海外実務の一節は、今後の議論で小規模BESSを外す論拠として使われうる。自社設備の規模がその境界のどちら側になりそうかは、論点セットJの審議が始まる前に見当をつけておきたい。
今から備えること
| # | アクション | 期限 |
|---|---|---|
| 1 | 論点セットJ(揚水・蓄電池)の審議開始時期と、蓄電リソースの最適化対象範囲の議論を監視する | 2026-12-31 |
| 2 | 2026年10月頃に実施予定の小売電気事業者向けアンケートの設問公表を待ち受ける | 2026-10-31 |
| 3 | 自社EMSで、一次調整力供出によるSOC変動と性能劣化を入札値に織り込む方法を整理する | 2026-12-31 |
| 4 | 複数拠点をサイトとして束ねる場合の、合計出力上下限の入札値と責任分界の設計を検討する | 継続 |
数値照合表
本文に出した記述を、一次情報の記載と1対1で対照した表である。ページ番号は各資料の該当ページを指す。
| # | 項目 | 本文の値 | 一次情報(出典・該当箇所) |
|---|---|---|---|
| 1 | 充放電上下限制約 | 各コマの出力上下限を入札し制約条件として考慮。サイト単位の合計出力上下限も考慮 | 資料4 p.65 |
| 2 | SOC制約の入札項目 | 貯蔵可能エネルギーの最小/最大量(kWh)・取引開始時点のSOC初期値・供給継続時間 | 資料4 p.65 |
| 3 | 一次調整力供出制約 | 「調整力の発動は同時市場の約定時点で発動有無が不明なため、本シミュレーションでの対象外」 | 資料4 p.65 |
| 4 | 性能劣化制約 | 「導入時期や運用状況に応じた考慮は本シミュレーションでの対象外」 | 資料4 p.65 |
| 5 | 系統起因出力抑制 | 「SCUC・SCEDの中で系統制約を考慮されると想定されるため、制約条件には反映しない」 | 資料4 p.65(揚水は p.62) |
| 6 | 一次調整力によるSOC変動 | 「特段制約とは考えていない。一次調整力によるSoC変動は長時間では±0になる想定」 | 資料4 p.52 |
| 7 | 技術検証での考慮 | 蓄電池の充放電上下限・系統起因出力抑制・SOC制約はいずれも「間接的に考慮可能だが未検証」 | 資料4 p.52 |
| 8 | 蓄電池に設定された制約 | 出力・上下限/出力保持/エネルギー入札のみ/貯水・SOC/同時起動・停止/起動停止回数の6項目 | 資料4 p.25 |
| 9 | 端点SOCの受け渡し | 週間運用で決定された端点の蓄電量[MWh]を2コマ(1コマ目・48コマ目)分 | 資料4 p.28 |
| 10 | 海外実務の割り切り | 「容量の小さなものはセルフスケジュールにまわして割り切っている」 | 資料4 p.23 |
| 11 | 研究会の指摘 | 「どこまでが事業者の運用裁量で、どのような形で収益機会を同時市場に織り込むのか、といった整理が必要」 | 資料4 p.73 |
| 12 | アンケートQ20-5の3案 | ①同時市場による運用(1週間単位)②BG運用ストレージ式(1日単位)③BG運用非ストレージ式 | 参考資料2 p.28 |
| 13 | アンケートの回答期限 | 2026年9月11日(金) | 参考資料2 p.2 |
| 14 | 論点セットJ | 「J 揚水・蓄電池」は約定区分の論点セット。優先着手は項目①運転制約・系統制約と項目②入札 | 資料5 p.3・p.4 |
よくある質問
Q1. 同時市場は蓄電池のどの制約を直接考慮するのですか。
Q2. 対象外とされたのはどの制約ですか。
Q3. 対象外になった制約は、誰が面倒を見ることになるのですか。
Q4. 系統起因の出力抑制は考慮されないのですか。
Q5. 小規模な蓄電池は同時市場の最適化対象から外れる可能性がありますか。
Q6. 日をまたぐSOCはどのように決まるのですか。
編集体制と事実確認プロセス
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- BESS NEWSは一次情報主義を採ります。官公庁・電力広域的運営推進機関・一般送配電事業者・執行団体が自ら公表した文書とページのみを出典とし、業界紙・ニュースサイト・プレスリリース配信の二次情報は出典に用いません。
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- 記載が見当たらない事項は「未確認」と明記し、推測で埋めません。本稿では、一次調整力によるSOC変動が±0に均されるとする「長時間」が指す時間スケールがこれに当たります。
- 本稿で扱った内容は、資料の表現どおり「素案」「方針としたい」の段階であり、確定した制度ではありません。
- 資料3「技術研究の進め方について」は本稿執筆時点で未取得のため、根拠に用いていません。
- EMS設計や収益機会への影響についての記述は、一次情報の事実に基づく編集部の解釈です。確定した見通しではありません。
出典(一次情報)
- 経済産業省:第25回 同時市場の在り方等に関する検討会(2026年9月14日)
- 資料4 第1フェーズの検討進捗状況
- 資料5 詳細業務設計の進捗報告
- 参考資料2 令和8年度同時市場の検討に係る調査アンケート(発電事業者等向け)
- 経済産業省:同時市場の在り方等に関する検討会(開催一覧)
※二次情報(業界紙・ニュースサイト・プレスリリース配信)は出典に用いていません。本文中のページ番号は、断りのない限り出典2(資料4)のものです。
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