作成日:2026.05.19
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※本記事は、作成日または最終更新日時点で公表されている制度情報・数値・資料に基づいて作成しています。
火力発電停止で始まる、50MW級メガソーラー260カ所、蓄電池なら3,120カ所分の供給力争奪戦!
〜容量市場・予備電源・出力制御・蓄電池併設が、再エネ事業の収益モデルを変える〜
CONTENTS目次
要点まとめ
2030年までに、2025年度比で火力発電1,300万kWの休廃止が計画されています。これは50MW級メガソーラー260カ所分の設備容量に相当します。
ただし、太陽光は火力と同じ安定供給力ではありません。必要な時間に電気を出せるか、つまりkW価値が重要になります。
BESS事業は、売電収入だけでなく、容量市場、長期脱炭素電源オークション、需給調整市場、出力制御リスクをまとめて設計する段階に入っています。
今回の資料で決まったこと・まだ決まっていないこと
1.第1回WGの議題は、供給力確保を中心に5本
第1回電力安定供給ワーキンググループの議題は、次の5本です。
1.今後の供給力確保
火力休廃止と供給力不足リスクの全体像を扱う議題です。
2.予備電源
休止火力を非常時用に残す制度設計を扱う議題です。
3.長期脱炭素電源オークション
蓄電池・揚水を含む脱炭素電源投資の支援を扱う議題です。
4.需給調整市場
BESSが参加し得る調整力市場の価格・募集量を扱う議題です。
5.非化石価値取引
環境価値取引に関する議題です。本稿では詳細には踏み込みません。
今回の資料は、単なる制度紹介ではありません。火力発電の休廃止が進む中で、どの制度で供給力を確保し、どの市場で調整力を調達し、どの電源投資を促すのかを整理する出発点です。
今回の資料は、単なる制度紹介ではありません。火力発電の休廃止が進む中で、どの制度で供給力を確保し、どの市場で調整力を調達し、どの電源投資を促すのかを整理する出発点です。
2.「決定済み」「案」「参考試算」を分けて読む
実務で最も重要なのは、資料中の位置づけを混同しないことです。
・2025年度応札の長期脱炭素電源オークション結果
位置づけ:公表済み
読み方:落札容量・応札状況は実績として読む。
・需給調整市場の前日取引化、上限価格15円への見直し
位置づけ:実施済み
読み方:2026年3月13日取引からの運用として読む
・予備電源第3回募集の目安価格14,860円/kW
位置づけ:案
読み方:決定事項ではなく、WGで示された案として読む。
・予備電源第4回以降の対象拡大
位置づけ:継続論点
読み方:今回確定ではなく、今後の制度設計論点として読む。
・需給調整市場の上限価格10円、7.21円への段階的引下げ
位置づけ:条件付き検討
読み方:競争状況が改善しない場合の検討事項として読む。
・出力制御対策としての蓄電池活用
位置づけ:関連論点
読み方:今回資料で制度変更が決まったわけではない。
ここを分けずに読むと、「案」を「決定」と誤解したり、「参考試算」を実収入と見誤ったりします。BESS投資判断では、この区別がそのままリスク管理になります。
なぜ火力休廃止が供給力争奪戦になるのか
1.2030年までに火力1,300万kWの休廃止が計画されている
資料5では、2026年度供給計画に基づき、2030年までに2025年度比で1,300万kWの火力発電が休廃止される計画と示されています。
ここでいうkW(キロワット)は、その瞬間にどれだけ電気を出せるかを示す単位です。
一方、kWh(キロワット時)は、一定時間でどれだけ電気を作ったか、または使ったかを示す単位です。
電力システムでは、単に発電量が多いだけでは足りません。真夏の夕方や冬の朝など、電気が必要な時間に供給できる力が必要です。
この「必要な時に出せる力」が供給力です。
資料5では、2026年から2035年までの10年間の見通しについて、複数エリアで信頼度基準を超過する厳しい状況が示されたとされています。
信頼度基準とは、電気が足りなくなるリスクを一定以下に抑えるための基準です。
2.50MW級メガソーラー260カ所分は「規模感」であって「同じ供給力」ではない
1,300万kWは13,000MWです。これを50MW級メガソーラーで割ると、260カ所分になります。
ただし、これは設備容量の単純換算です。太陽光発電は、晴れた昼には大きな出力を出せますが、夜は発電できません。
曇りや雨でも出力が下がります。そのため、「50MW級メガソーラー260カ所を建てれば火力1,300万kWをそのまま置き換えられる」と考えるのは誤りです。
実際には、蓄電池、需要側調整、送電網、他電源との組み合わせで、必要な時間に供給できる形へ変える必要があります。
BESSは、この時間のズレを埋める役割を持ちます。昼に余りやすい電気を充電し、夕方や需給が厳しい時間に放電することで、太陽光の価値を高める可能性があります。
3.供給計画だけでは見えにくい不確実性がある
資料5では、供給計画に十分織り込まれていない不確実性も指摘されています。
たとえば、2026年度中に休廃止となる火力電源371万kWのうち、126万kWは2026年度供給計画で初めて計上されたとされています。
つまり、火力休廃止は、事業者の意思決定や地元調整などを経て、後から計画に反映されることがあります。
さらに、2035年度時点で営業運転開始から50年を超える火力発電が約1,300万kW存在することも示されています。
今後、老朽化や非効率石炭火力のフェードアウトにより、追加的な休廃止が増える可能性があります。
実務上は、発電所の休廃止計画を「現在見えている数字」で固定的に見ないことが重要です。
供給力不足のリスクは、後から大きくなる可能性があります。
供給力を支える3つの制度をどう読むか
1.容量市場は将来使えるkWを確保する制度
容量市場は、将来使える供給力kWを取引する制度です。発電した電力量kWhを売る市場ではなく、必要な時に電気を出せる能力に対価を払う仕組みです。
資料5では、容量市場は実需給の4年前にメインオークション、1年前に追加オークションを行う制度として説明されています。
2025年度メインオークションでは、16,608万kWの供給力が確保されたとされています。ただし、容量市場にも課題があります。
資料5では、上限価格があるため、約定処理を終えても供給信頼度を満たさないエリアがあること、確保した供給力が実需給までに退出して剥落する場合があることが示されています。
つまり、容量市場は供給力確保の柱ですが、それだけで全ての不足リスクを解決する制度ではありません。
2.予備電源は休止火力を非常時の控え選手として残す制度
予備電源は、大規模災害や想定しにくい需要増加に備え、休止中の火力発電を非常時用に維持する制度です。
資料6では、対象電源は、容量市場で安定電源に区分される10万kW以上の火力電源であり、容量市場メインオークションで2年連続不落札または未応札となった電源などとされています。
第3回募集については、目安価格を14,860円/kWとする案が示されています。
これは直近過去3回の容量市場メインオークション上限価格の平均値です。また、2026年度夏頃に募集を開始し、2026年度冬頃に落札決定とするスケジュール案も示されています。
ここで注意すべき点は、これらは「案」であり、決定事項として書いてはいけないということです。
3.長期脱炭素電源オークションは脱炭素電源の長期投資を支える制度
長期脱炭素電源オークションは、脱炭素電源への新規投資を促す制度です。
落札された電源は、原則20年間、固定費水準の容量収入を得る仕組みとされています。
2025年度応札の結果では、脱炭素電源の募集量500万kWに対し、426.1万kWが落札されました。
LNG専焼火力は募集量293万kWに対し、303.8万kWが落札されています。
蓄電池・揚水の応札は約355万kWと、募集上限80万kWの4倍超に達しました。
これは、蓄電池への投資意欲が強いことを示す重要な数字です。一方で、蓄電池は充電してから放電する設備です。
発電所のように燃料を入れればいつでも発電できるわけではありません。そのため、制度上も供給力としての評価、募集上限、調整係数、リクワイアメントを確認する必要があります。
BESS・再エネ事業者への影響
1.蓄電池・揚水の応札は大きいが、設備容量がそのまま価値になるわけではない
長期脱炭素電源オークションでは、蓄電池・揚水への関心が明確に示されました。
資料7-3では、リチウムイオン蓄電池・揚水リプレース等が81.9万kW、リチウムイオン以外の蓄電池・揚水新設が88.6万kW落札されたとされています。
ただし、BESS事業者がここで誤解してはいけないのは、設備容量そのものが収益になるわけではないという点です。
制度で評価されるのは、必要な時間にどれだけ供給力として機能するかです。
さらに、長期脱炭素電源オークションでは、他市場収益の還付も関係します。
資料7-1では、蓄電池・揚水・LDESについては、発電コスト検証で可変費・設備利用率が公表されていないため、他市場収益の推定還付額の試算に含まれていないと注記されています。
つまり、オークション資料の数字だけで、蓄電池案件の実収入を判断することはできません。
2.需給調整市場は収益機会だが、価格ルールは検証が続く
需給調整市場は、電気の需給を最後に合わせる調整力を取引する市場です。
BESSは応動速度が速いため、この市場に適したリソースになり得ます。
資料8では、2026年3月13日の取引、つまり3月14日受渡分以降、一次調整力、二次調整力①、二次調整力②、三次調整力①などの前日取引化が始まったとされています。
また、一次・二次①・複合商品の上限価格は、19.51円/ΔkW・30分から15円/ΔkW・30分に引き下げられました。
ΔkW(デルタキロワット)とは、調整のために出力を増減できる能力を示す単位です。
ただし、資料8では、前日取引化後も一次の応札未達は解消されていない一方、上限価格付近で約定できる状況もあり、十分な競争が働いているとは評価しがたいとされています。
そのため、競争状況が改善しない場合、上限価格を10円、7.21円/ΔkW・30分などへ段階的に引き下げる検討が示されています。
BESS事業者は、需給調整市場を収益機会として見るべきですが、価格低下シナリオも必ず織り込む必要があります。
3.出力制御は今回の決定事項ではなく、蓄電池収益を考える前提論点
出力制御とは、電気が余る時間に太陽光や風力などの発電を一時的に抑える運用です。
再エネ事業者にとって、蓄電池併設を考える大きな理由の一つです。
ただし、今回の第1回電力安定供給WG資料では、出力制御の制度変更や具体的な制御見通しは主題ではありません。
そのため、本稿では、出力制御率や補償の有無について断定しません。
実務上は、出力制御リスクを蓄電池収益モデルの前提として扱う必要があります。
たとえば、昼に出力制御が起きやすい発電所であれば、蓄電池で充電し、別の時間に放電する設計が考えられます。
しかし、蓄電池を付ければ必ず出力制御損失がなくなるわけではありません。
蓄電池容量、充電可能時間、系統接続条件、市場価格、制御指令のタイミングによって効果は変わります。
まだ未定の論点
1.2030年度までと2031年度以降で制度対応の時間軸が違う
資料5では、2030年度実需給までと2031年度以降で、対応の考え方を分けています。
2030年度までは、容量市場のメインオークションがすでに終わっている年度も含まれるため、既存の容量市場の枠組みを前提に、予備電源や短期供給力確保策を中心に対応するとされています。
一方、2031年度以降は、今後メインオークションを行うため、容量市場の在り方を含め、既存制度・市場の見直しを議論するとされています。
BESS投資は10年、15年、20年単位で見る案件が多いため、2030年度までの短期対策だけでなく、2031年度以降の制度見直しも視野に入れる必要があります。
2.予備電源の対象拡大は第4回募集以降の継続論点
資料6では、第3回募集については大枠を変えずに実施する案が示されています。
一方、第4回募集以降については、単年度不落札電源や、経済的ペナルティを支払って容量市場から退出した電源などを対象に加えるかどうかを、容量市場の要件見直しと一体で検討するとされています。
これは、火力発電の扱いだけでなく、容量市場全体の価格形成や、BESSが担うべき役割にも影響する可能性があります。
3.長期脱炭素電源オークションと需給調整市場は次回以降の見直しに注意
長期脱炭素電源オークションでは、第4回入札に向けて、上限価格、募集量、個別電源の論点が次回以降議論される予定です。
また、需給調整市場では、前日取引化後の市場状況について、引き続き検証が行われます。
資料8では、前日取引化後のデータはまだ1か月分であり、事業者行動が固まっていない可能性もあるとされています。
BESS事業者は、現在の市場価格や落札実績だけで投資判断するのではなく、次回以降の制度変更リスクを見込む必要があります。
実務担当者が今確認すべきこと
1.再エネ・BESS案件では、供給力・調整力・系統・劣化を同時に見る
再エネ・BESS案件で確認すべきことは、売電単価だけではありません。
まず、容量市場や長期脱炭素電源オークションで、案件がどのように供給力として評価されるかを確認する必要があります。
次に、需給調整市場に参加する場合、応動時間、継続時間、計測、通信、制御の要件を満たせるかを確認します。
さらに、系統接続費も重要です。資料7-2では、長期脱炭素電源オークションの応札価格監視において、系統接続費、固定資産税、発電側課金、事業税などが確認対象になっています。
応札価格に含める費用の根拠が問われるため、事業計画段階から証憑を整える必要があります。
最後に、蓄電池劣化です。充放電を増やせば市場収入は増える可能性がありますが、劣化や交換費用も増える可能性があります。
収益モデルでは、充放電回数と劣化コストを必ずセットで見るべきです。
2.ROIは追加収入と追加費用を分解して見る
ROI(Return on Investment:投資回収率)は、概念的には次のように考えます。
ROI ≒(年間追加収入 − 年間追加費用)÷ 初期投資
年間追加収入には、卸市場での時間差取引、需給調整市場の収入、容量価値、出力制御による機会損失の低減などが入り得ます。
一方、年間追加費用には、蓄電池の保守費、充放電ロス、劣化コスト、通信・制御システム費、アグリゲーター費用、系統接続費、発電側課金などが入ります。
落とし穴は、収入だけを足し上げることです。長期脱炭素電源オークションでは他市場収益の還付があり、需給調整市場では上限価格引下げが検討される可能性があります。
BESSは複数市場で収益を狙えますが、同じ時間に同じ容量を二重に使うことはできません。
よくある誤解(Q&A)
Q
50MW級メガソーラー260カ所を建てれば、火力1,300万kWをそのまま置き換えられますか。
A: いいえ。260カ所分は設備容量の単純換算です。太陽光は夜間や悪天候時に出力が下がるため、火力と同じ安定供給力にはなりません。
Q
予備電源の14,860円/kWは決定済みですか。
A: 今回資料では第3回募集の目安価格案として示されています。決定事項として扱うべきではありません。
Q
蓄電池は長期脱炭素電源オークションで必ず有利ですか。
A: 必ずではありません。応札は大きいものの、募集上限、供給力評価、リクワイアメント、他市場収益還付などを確認する必要があります。
Q
需給調整市場はBESSの高収益市場として見てよいですか。
A: 収益機会はありますが、高収益が続くとは限りません。上限価格の段階的引下げが検討される可能性があります。
Q
出力制御対策として蓄電池を付ければ、損失は必ずなくなりますか。
A: 必ずではありません。今回資料では出力制御制度の詳細変更は扱われていません。実際の効果は、蓄電池容量、系統条件、市場価格、制御指令のタイミングで変わります。
出典(一次情報のみ)
資源エネルギー庁「議事次第」第1回電力安定供給ワーキンググループ 資料1
公表日:2026-05-13 参照日:2026-05-19
資源エネルギー庁「電力安定供給ワーキンググループの設置について」第1回電力安定供給ワーキンググループ 資料3
公表日:2026-05-13 参照日:2026-05-19
資源エネルギー庁「今後の供給力確保について」第1回電力安定供給ワーキンググループ 資料5
公表日:2026-05-13 参照日:2026-05-19
資源エネルギー庁「予備電源について」第1回電力安定供給ワーキンググループ 資料6
公表日:2026-05-13 参照日:2026-05-19
電力広域的運営推進機関「容量市場 長期脱炭素電源オークション約定結果(応札年度:2025年度)」第1回電力安定供給ワーキンググループ 資料7-1
公表日:2026-05-13 参照日:2026-05-19
電力・ガス取引監視等委員会「長期脱炭素電源オークションに係る応札価格の監視結果について(応札年度:2025年度)」第1回電力安定供給ワーキンググループ 資料7-2
公表日:2026-05-13 参照日:2026-05-19
資源エネルギー庁「長期脱炭素電源オークションについて」第1回電力安定供給ワーキンググループ資料7-3
公表日:2026-05-13 参照日:2026-05-19
資源エネルギー庁「需給調整市場について」第1回電力安定供給ワーキンググループ 資料8
公表日:2026-05-13 参照日:2026-05-19
監修者
青栁 福雄
Aoyagi fukuo
Energy Link 取締役 COO
系統運用・需要側制御・スマートグリッド分野の実務家。東京電力にて変電所の建設・運用・保守および大口顧客向けエネルギーソリューションに従事。マイエナジー出向時には2002年日韓ワールドカップの複数会場および国際放送センターの電源責任を担当。東光高岳では執行役員としてスマートグリッド事業を統括し、NEDO事業等に参画。2019年にEnergy Linkを創業し、分散型電源の導入・利活用を推進。
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